婚約者に「時間の無駄だから二度とメイクはするな」と言われた伯爵令嬢

著者:間咲正樹

「ドナ、どうかしらこれ?」

 私の専属メイドであるドナに、今日のメイクを見てもらう。

「わあ! とってもお綺麗ですお嬢様! これならきっとジェイコブ様も、お嬢様にメロメロですよ!」
「ふふ、メロメロって」

 大袈裟にはしゃぐドナに、思わず口角が上がる。

「あ、もうこんな時間! ドナ、急いで馬車を準備して!」
「は、はい、お嬢様!」

 今日はこれから婚約者であるジェイコブ様と二人で、夜会に出席することになっているのだ。
 私は最後にもう一度だけ鏡でメイクを確認すると、自室を後にした――。

「遅いぞコーデリア! 5分も遅刻だ! どこで何をやってたんだッ!」
「――!」

 が、夜会の会場に着くなり、ジェイコブ様から怒号が飛んできた。
 ジェイコブ様は左腕に嵌めている腕時計を、右手の人差し指でトントン叩いている。
 あ、あぁ……。

「……申し訳ございませんでした。少々支度に時間が掛かってしまいまして」
「支度だぁ? フン、大方またその似合いもしない厚化粧に、無駄な時間を使っていたんだろう?」
「……!」

 無駄な……時間。

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