「妹に譲った婚約」
――そう語られるたび、伯爵令嬢イレーネは違和感を覚えていた。
譲ったのではない。
彼女は、自分の意思で“降りただけ”だ。
優しいが決断しない婚約者。
波風を立てないために、判断をすべて彼女に委ねる関係。
このまま結婚すれば、自分だけが決め、背負い続ける未来が見えた。
だからイレーネは婚約を解消した。
妹のためでも、美談のためでもない。
自分の人生の席が、そこではなかったから。
しかし社交界は、彼女の選択を「優しい姉の自己犠牲」として消費しようとする。
その評価に、イレーネははっきりと異を唱えた。
「私は席を譲りました。押し付けてはいません」
譲ったのは婚約ではなく、
“居続ける義務”だったのだ。


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