その話、聞く前に終わっています

著者:百鬼清風

私は、好かれない人間だ。
それは欠点でも誤解でもなく、私自身が選び続けてきた在り方だった。

地方伯爵家の長女として生まれた私は、王太子カイ・ローディアスの婚約者という立場に置かれた。
その婚約は愛情の結果ではなく、王家と貴族社会の均衡のために必要とされた、静かな政治案件だった。それでも私は、その立場が永遠に続くものだと、どこかで信じていた。

王宮での生活、周囲の視線、王太子の沈黙。
私はそれらを「理解しているつもり」でやり過ごし、自分が何を与え、何を奪っているのかを深く考えようとはしなかった。選ばれているという事実だけを拠り所にして、相手の立場や覚悟の重さを測ろうとしなかったのだ。

やがて婚約は終わる。
それは誰かの裏切りや劇的な断罪ではなく、当然の帰結として静かに処理される。王太子は次の役割へ進み、王宮は何事もなかったかのように回り続け、私だけが取り残された。

その後の人生で、私は多くを失った。
だが、それが失敗だったのか、間違いだったのかを、最後まで正確に言い切ることはできない。私は自分なりに正しく振る舞い、自分なりに誠実であろうとした。その結果として、誰の記憶にも残らない場所に辿り着いただけだ。

これは、
誰かに断罪される物語ではない。
救われる物語でもない。

自分が何者であったのかを、最後まで理解しきれなかった一人の女が、
静かに、孤独な人生を終えていく話である。

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