もう誰にも期待しない。 三年前にそう決めた。
身に覚えのない罪で宮廷を追われ、家からも捨てられた元公爵令嬢は、辺境の小さな村で薬草茶の工房を営んでいる。
魔法が使えない体に残っていたのは、別の世界で生きた記憶だけだった。 その記憶を頼りに薬草を煎じ、村人の痛みを和らげ、少しずつ自分の居場所を作ってきた。
誰の助けも借りず、誰の目にも止まらず、静かに生きていくはずだった。
けれど辺境の工房を一人の男が訪ねてくる。 帝都から来たと名乗るその男は、彼女の茶を一口飲んで手を震わせた。
なぜ帝国の宰相が視察官を装って辺境にいるのか。 なぜ彼は平民であるはずの工房主に敬語を崩さないのか。 なぜ彼女の茶を飲んだとき、亡き母の面影を重ねたのか。
壁を作って生きてきた女と、壁の向こうに立ち続ける男。
差し出された手を取れば、置き去りにした過去が動き出す。 取らなければ、この静かな日々は守られる。
彼女が選んだのは、そのどちらでもなかった。


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