私は何もしていない。
それなのに聖女の神託は私を断罪し、婚約者は私を捨て、祖国は私を追い出した。
国境の橋を渡った先は、つい三十年前まで戦争をしていた敵国。言葉も文化も違う異国の地で、私に残されたものは、亡き母から教わったお菓子の作り方と、形見のブローチだけだった。
だから決めた。誰かに必要とされるのを待つのはもうやめる。自分の手で、自分の居場所を作ろうと。
小さな喫茶店を開いた私のもとには、なぜか厄介ごとばかりが転がり込んでくる。国境紛争を抱えた商人、身分を隠した貴族、そしてやけに私の店に通い詰める無愛想な青年。
お菓子を出しているだけなのに、気づけば両国の要人が私の店で密談を始めていた。
断罪した側は今更私を取り戻そうと躍起になっているらしい。けれど私はもう、誰かの都合で動く駒じゃない。
この国で、この場所で、私は私の人生を歩く。
あの無愛想な青年が隠している正体に気づいたとき、私の選択はどこへ向かうのだろう。


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