誰にも感謝されない五年間だった。
嫁ぎ先の公爵家で帳簿を立て直し、領地の収穫を倍にし、病に伏す義母の薬を自分の手だけで調合し続けた。それでも夫は一度もこちらを見なかった。
彼が見ていたのは別の女だった。
愛人が屋敷に足を踏み入れた日、セラフィーナは離縁状を一枚だけ残して公爵家を去る。怒りではない。悲しみでもない。ただ五年かけてようやく気づいたのだ。この家に自分の居場所は最初からなかったのだと。
彼女が抜けた屋敷で何が起きるのか、夫はまだ知らない。
商会との契約が誰の名義だったのか。灌漑路の水門を誰が調整していたのか。義母の薬を調合できる人間がこの国に何人いるのか。
一方で北の辺境には、三年間ずっと取引書面の末尾に一行だけ私信を添え続けた男がいる。彼の書斎の壁には、セラフィーナ自身も忘れかけていたあるものが飾られていた。
手を汚さない復讐と、言葉にされなかった想い。
その両方の答えを知っているのは彼女だけだ。


レビュー