悪役令嬢は覚えてない

目を開けたら断罪の最中だった。

直近二年の記憶がない。
自分が何をしたのかも分からない。
けれど周囲の全員がわたしを悪人だと信じている。

証拠を見せてほしい。
そう口にしたわたしに味方はいなかった。
旧友も婚約者も誰もがわたしから目を逸らした。

たった一人を除いて。

無愛想な宮廷監察官が調査を引き受けた。
理由は聞いていない。
彼はただ制度と手続きだけを武器に黙々と紙を積み上げていく。

記憶のないわたしにできるのは自分の日記を読み返すこと。
そこには見知らぬ筆跡で記された警告が残っていた。
記憶を失う前のわたしは何かに気づいていた。
誰かに怯えていた。

調査が進むたびに浮かび上がるのは断罪の裏に隠された不自然な構図。
人の記憶を歪める古い呪術。
証拠を握り潰した何者かの手。
そしてわたしに近づいてくる協力者の不自然な笑顔。

記憶がないから分かることがある。
思い出せないから疑えることがある。

けれど一つだけ分からない。
この監察官はなぜ万年筆を何本も折りながらわたしの名前だけは一画も乱さず書くのだろう。

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