触れられない夫が三年間そっと置き続けたものに気づいたとき私は泣いた

著者:月雅

毎朝、書斎の前に茶碗を置く。 夫は何も言わずにそれを飲み、茶碗を元の場所に戻す。 三年間、それだけが夫婦の接点だった。

聖騎士の妻になった日から、夫に触れることは許されなかった。 神殿の誓約が、夫の手を縛っている。 会話はできる。同じ屋敷にいられる。けれど指先ひとつ、触れてはならない。

夫が何を考えているのか分からない。 冷たいのか、無関心なのか、それとも別の何かがあるのか。 問いかける勇気が出ないまま、私はただ観察することを選んだ。

ある朝、茶碗の位置がいつもと違うことに気づいた。 ほんの数寸。利き手の側にずれている。

それは偶然かもしれない。 けれど翌朝も、その翌朝も、同じだった。

夫は何も言わない。 私も何も聞かない。 それでも何かが少しずつ変わり始めていた。

そんな日々の中で、社交界にひとつの噂が広まっていく。 聖騎士を堕落させる悪役令嬢。 その名が、私に向けられていた。

噂の出所を辿れば、夫を縛る誓約の先にいる人物に行き着く。 待っていれば状況は変わるのか。 それとも、自分の足で動かなければならないのか。

触れられない距離で夫が差し出し続けていたものの正体に、 私はまだ気づいていない。

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