自分がモブだと気づいたのは、断罪された瞬間だった。
聖女の託宣ひとつで悪徳令嬢の烙印を押され、弁明すら許されず、極北の辺境に追放されたリーネ。父は目を逸らし、貴族たちは沈黙し、誰もリーネの名前を呼ばなかった。
たったひとつ持ち出せたのは、裁判の議事録の写しだけ。
けれど追放先の荒野で足元を見た瞬間、前世の記憶が叫んだ。
この雑草は全部、薬草だ。
大学院で植物学を研究していた前世の知識を頼りに、リーネは辺境で薬草を育て始める。咳が止まらない子供を治し、治癒魔法でも治せなかった病を癒し、少しずつ人が集まり始めた頃、王都から一人の青年がやってきた。
調査員を名乗る執事、クロエ。
言葉は少なく、感情は見せず、棚を作り、薪を割り、雨の日には黙って外套を置いていく。
この人の好意はいつも、手の中にある。
だがクロエには、リーネに明かせない秘密がある。
リーネの辺境が注目を集めるほど、その秘密は重くなる。
やがて王都から届く圧力。奪われかけた居場所。崩れた信頼。
そして一枚の議事録が、すべてを動かし始める。
薬草しか取り柄のないモブ令嬢と、言葉を持たない青年の選択が交わるとき、この辺境に何が残るのか。


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