三年間、夫は私の名前を一度も呼ばなかった。
食卓でも、夜会でも、ふたりきりの夜でも。
いつも「夫人」か、沈黙だけだった。
愛されていないと分かっていた。
それでも公爵夫人として完璧に務めを果たしてきた。
けれど「存在を無視されること」だけは、どうしても耐えられなかった。
結婚三周年の朝、フローラは離縁届を書斎の机に置いた。
その上に、結婚指輪を並べた。
荷造りを始めようとした時、一人の男が屋敷を訪ねてきた。
男は去り際にひとつだけ告げた。
結婚初日に渡された、あの白紙の日記帳を開いてみろと。
フローラは三年間放置していた革装の日記帳を取り出す。
やはり白紙だった。
ところが一滴の涙がページに落ちた瞬間、
何もなかったはずの紙面に、文字が浮かび上がってきた。
そこには毎日、同じ書き出しで始まる文章が書かれていた。
夫がなぜ三年間、妻の名を一度も呼ばなかったのか。
その答えを知った時、あなたはこの夫婦のことをどう思うだろうか。


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