三年間、笑顔を絶やさなかった。
婚約者の王子のために外交文書を書き、茶会を仕切り、晩餐会を企画した。
成果はすべて、王子の名前で差し出された。
わたくしの名前は、一度も呼ばれなかった。
王子が侍女の手を取ったことを、半年前から知っていた。
泣かなかった。
怒りもしなかった。
代わりに、毎晩机に向かい、離脱の計画を書き続けた。
婚約破棄を告げられた日、わたくしは微笑んで答えた。
ありがとうございます、と。
翌朝、王都から姿を消した。
辺境に母が遺した温泉がある。
その湯には、まだ誰も知らない力が眠っている。
古い別荘を宿に変え、自分の手で生きていくと決めた。
そこに、一人の軍人が現れた。
戦傷を抱えた隣国の男。
口数は少なく、無愛想で、けれど薬湯に浸かった後にこう呟いた。
この湯の配合を考えた人間は、ただ者ではない、と。
王都では、わたくしが消えたことに誰も気づかない。
気づいた時には、もう手遅れになっている。
わたくしが静かに積み上げてきたものの重さを、あの方はまだ知らない。


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