三年間、伯爵家の帳簿を一人で回した。 領地の税収も、農民への薬の配布も、 来客の茶の手配も、全部私がやった。
見返りは冷え切った食事と六畳の離れ部屋。 夫は私の名前すら呼ばなくなっていた。
ある日、夫が告げる。 真実の愛を見つけたから契約は終わりだ、と。 隣には実の妹がしがみついていた。
泣くと思われていた。 縋ると思われていた。 私は完璧な礼で一礼し、署名済みの離縁状を差し出した。
裏口からひとりで出ようとした夜。 壁のように寡黙だった従騎士が、 見たこともない礼装で立ち塞がっていた。
あの男は三年間、何も言わなかった。 ただ深夜の執務室の灯りが消えるまで、 毎晩廊下に立っていたのだという。
彼が差し出したのは同情ではない。 隣国の名を背負った、ある提案だった。
なぜ従騎士が国家の保護を口にできるのか。 なぜ私の調合した薬草が他国を動かすのか。 そして彼が三年間隠していたものは何か。
冷えたスープしか知らなかった女の手を、 誰かが初めて温かいものとして握った。
その手を取るかどうかを、まだ私は決めていない。


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