五年間、窓のない部屋で眠った。 椅子のない書庫で、冷めたスープを立って啜った。 週三日の名誉職のはずが、毎日深夜まで働いた。
前世で過労死した記憶を持つ伯爵令嬢セラフィーナは、この世界でもまた同じ道を歩いていた。 王太子の婚約者という肩書の裏で、誰にも気づかれず、壊れかけていた。
ある日、王太子が大広間で婚約破棄を告げる。 泣き崩れるはずの令嬢は、人生で一番の笑顔を浮かべた。 心の中で叫んだのは、自由という二文字だった。
王宮を去る朝、掲示板で一枚の求人票を見つける。 辺境の魔物保護局、事務官募集。 その募集要項にはこう書かれていた。 定時退勤を遵守すること。
帰れと言ってくれる職場が、この世界にある。 その一行だけで、彼女の足は辺境へ向かった。
待っていたのは、口下手で無愛想な局長と、崩壊した書庫と、膝に飛び乗ってくる白い小さな魔獣。 温かいスープを出してくれる人がいた。 五時の鐘で帰れと言ってくれる人がいた。
けれど王都は、失った歯車を取り戻そうとする。 前の人生と同じように、自分が引けば済むと思ってしまう彼女は、この場所を守れるのか。
二度目の人生で初めて手にした居場所の重さを、彼女はまだ量りきれていない。


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