乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私。前世はスクールカウンセラー。公立中学・高校を渡り歩くこと二十三年、年間相談件数五百件、不登校対応三百ケース、保護者面談は数えるのをやめた。チートはない。魔法も使えない。でも——「問題児」の裏側を見る技術なら、誰にも負けない。
卒業パーティで王子に断罪された?
ええ、分かっています。これ——ケース会議の案件ですよね。
王子の拳が震えている。怒りの裏にある不安。聖女の涙が光っている。演技の涙は、こぼれ落ちない。——前世で一万件の相談を受けた目は、全部見えている。
「殿下、お座りになってお話しいただけますか?」
たった一言で、断罪を面談に変える。王子を座らせ、沈黙を待ち、「分からない」という本音を引き出す。チートの代わりに使うのは、傾聴と観察と、恩師から叩き込まれたカウンセリングの鉄則。
翌日、聖女の家を訪ねた。質素な下宿。欠けた器。食べかけのパン。——そしてこの子の部屋には、「前世の記憶」を持つ者だけが見せる、四つの違和感があった。
断罪も、ざまぁも、チートもない。あるのは——面談予定表と、ケース記録と、「問題児はいない。問題を抱えた子どもがいるだけだ」という、スクールカウンセラーの矜持だけ。
凡人枠シリーズ第九弾。前世スキルだけで異世界を生き抜く、大人の「お仕事」ファンタジー。


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