この世界の回復魔法は万能だった。
——ただし、死んだら使えない。
冒険者の死亡率は、年間百人に一人。数字だけ見れば少ない。
——だが、問題はそこじゃない。
「死ぬかもしれない」というリスクが、あらゆるものを歪めている。家族は毎日不安を抱え、家は「冒険者不可」と断られ、怪我で戦えなくなれば収入はゼロ。遺族への保障もない。詰み将棋だ。
そこに送り込まれたのは、チートなしの「凡人枠」転生者。前世は大手生命保険会社に二十年勤めた保険外交員。営業だけではない。損害調査——いわゆるアジャスターも経験し、事故現場と書類の両方を知っている。
剣も魔法も使えない。だが「リスク評価」「死亡率計算」「保険設計」「支払い査定」「損害調査」なら、前世で二十年やってきた。
「保険って何ですか?」
「みんなでちょっとずつお金を出し合って、誰かが死んだとき、その家族にお金を渡す仕組みです」
「……それ、魔法じゃなくて?」
「魔法じゃないです。算数です」
チートで命は救えても、命の後始末は誰もしない。
必要なのは——地味で、退屈で、誰も興味を持たない「保険」だった。


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