白紙の離婚届

三年間、微笑み続けた妻が差し出した離婚届を、夫は白紙のまま返した。
治癒魔法の使い手エレノアは、政略結婚で嫁いだ公爵家で静かに働き続けた。

井戸水を浄化し、薬草を育て、二百人以上の命を救った。
夫のルシアンはそのすべてを知らない。
彼が寝言で呼んだのは、別の女の名前だった。

署名欄は空白のまま。

書けなかった、と夫は言った。
その一言の意味を問えないまま、エレノアは屋敷を出る。
帰る場所を失い、治癒師として立ち上がった彼女の元に届いたのは、かつての領地からの救援要請だった。

壊れた結婚を、治癒魔法では治せない。
けれどもう一度、名前を呼ぶところから始め直すことはできるだろうか。

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