国葬の日、勇者の棺に納められているはずの聖剣はなかった。
代わりに入っていたのは、辺境の娘が昔貸した、擦り切れた灰青色のマフラー。
王侯貴族はざわめく。
なぜ国を救った英雄の棺に、そんなみすぼらしい品が入っているのかと。
けれどそれは、勇者がまだ勇者ではなかった冬の日、
吹雪の中で倒れた自分に「返しに来る時まで貸してあげる」と渡されたものだった。
英雄になっても、魔王を倒しても、
彼はその約束だけは果たせなかった。
棺に入れてほしいと勇者が最後に遺したのは、
国を救った証ではなく、
自分がずっと帰ろうとしていた場所の証だった。


レビュー