薬師のさじかげん

「余命半年の公爵閣下を看取ってほしい」――そう言われて嫁いだ薬師のフィオナ。けれど彼女は涙を流すどころか、嫁いだその夜から経過観察日誌を開き、薬膳粥の仕込みを始めていた。医師が匙を投げても、薬師の匙はまだ残っている。半年あれば、季節はひと巡りするのだから。

生きることを諦めた藍色の瞳の旦那様・レクシオに、フィオナは毎朝心を込めた薬膳料理を運ぶ。粥、蕪の葛煮、蒸し鶏――回復に合わせて、一さじずつ丁寧に匙加減を確かめて。やがて顔色が戻り、笑顔が戻り、剣を振るうほどに元気になっていく旦那様。

けれど気づけば、フィオナの几帳面な経過観察日誌は、いつの間にか別のものに変わり始めていて――。

「薬が彼を治したのではありませんぞ。あなたが毎朝、食卓にいたことが、彼を治したのです」

これは、看取るはずだった花嫁が、匙加減を少しだけ間違えてしまう物語。

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