婚約破棄ではない。
断罪でもない。
ただ、白紙に戻されただけだった。
聖女への嫌がらせを疑われた令嬢アデル・ヴァルシュタインは、王太子の裁定によって婚約を「成立しなかったもの」として扱われ、王都を去ることになる。
誰かが明確に裁かれたわけではない。けれど、その場で何かが終わったことだけは確かだった。
領地へ戻ったアデルを待っていたのは、感傷ではなく実務だった。
治水、物流、税、治安。
止まりかけていたものを整え、滞っていた流れを繋ぎ直していくうちに、街は少しずつ息を吹き返していく。
やがてその変化は、王都にも届く。
かつて一枚の裁定で遠ざけられた令嬢は、今や多くのものを支える立場になっていた。
そして王都もまた、変わらないままではいられなくなっていく。
これは、何かを失ったはずの令嬢が、別の場所で確かなものを積み上げていく話。


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