二つの人生を生きて、温かい食卓を一度も知らなかった。
悪役令嬢エレノーラは、濡れ衣を着せられ毒殺された夜の記憶を抱えたまま、三年前の自分に戻った。
裏切りの筋書きも、義母の企みも、全部覚えている。
けれど彼女が最初にしたのは、復讐の計画ではなく、厨房で鍋を火にかけることだった。
前世の記憶にある煮物を作ってみたら、偶然食べた宰相閣下が目の色を変えた。
無表情で、無愛想で、朝は紅茶だけ、夜は食べないこともある男。
そんな人がたった一言、こう言った。
この煮物を、毎日届けてほしい。
宰相邸の専属料理人という奇妙な立場を得て、エレノーラの二度目の人生が動き始める。
朝は出汁を引き、昼は弁当を届け、夜は執務室で一緒に夕飯を食べる。
義母の手紙が届いても、王太子の影がちらついても、彼女の手は包丁を離さない。
復讐なんていらない。
ただ、美味いと言ってくれる人の隣で、ごはんを作っていたい。
けれど閣下は気づき始めている。
この料理人には、伯爵令嬢には不釣り合いな実務能力と、誰にも言えない過去がある。
閣下が真実に辿り着いたとき、この食卓はどうなるのだろう。
死に戻った悪役令嬢は復讐より晩ごはんに忙しい
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