モブのはずだった。
転生してきたエルーシアは、決めていた。
ゲームの主人公にも悪役令嬢にも関わらない。
端っこで、紅茶と石鹸を作って静かに生きる。
そう、決めていたのに。
ある春の夜会で、運命が少し、ずれた。
本来とは違う令嬢が、王太子に断罪された。
帰り道、見知らぬ騎士に肩のショールを拾われた。
それだけのことだった、はずだった。
翌朝、その騎士が視察と言って店にやってくる。
無口で、無愛想で、しかしなぜか毎日。
もう一杯とだけ告げて、紅茶を飲んで帰っていく。
私、モブのはずなのですが。
気づけば、行き場をなくした元婚約者が弟子入りに現れる。
公爵令嬢が、優雅な微笑で買収の話を持ちかけてくる。
王妃陛下からの招待状が、勝手口に届く。
何もしていない、はずだった。
ただ、毎日、真面目に紅茶を淹れていただけ。
なのに、騎士団長の灰色の瞳は、いつから私の指先ばかりを見ているのだろう。
モブ令嬢のつもりでしたが、気づいたら国一番の商会を築いていたらしいです
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