12年前、嫁いだその日に夫から告げられた。
「この子を、お前の子として育てろ」
ヴァイスブルク公爵家に嫁いだイルマが渡されたのは、生まれたばかりの赤子──夫オスヴァルトの愛人の子だった。
名門伯爵家の薬草学の知識を持つイルマは、公爵家の「完璧な夫人」を演じながら、血の繋がらない娘リタを実の子として12年間育て上げた。領地の薬草園を整え、使用人たちの信頼を勝ち取り、社交界では非の打ちどころのない貴婦人として振る舞い続けた。
だが、リタが12歳になった年──夫が新たな愛人を公爵邸に迎え入れ、イルマに離縁を突きつける。「もう用済みだ」と。
すべてを捧げた12年を「用済み」と切り捨てられたイルマは、静かに決意する。泣き寝入りはしない。この家で積み上げてきたものを武器に、自分の足で立つ。
薬草魔法という異例の才能、12年で築いた人脈、そして夫が隠し続けてきた不正の証拠──。
かつての「都合のいい妻」が、貴族社会の常識を覆す時、誰が最後に笑うのか。


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