貴方が一度も呼ばなかった、私の名前

著者:夢見叶

 婚約してから6年。婚約者グレゴワールは、私の名を一度も呼んだことがない。「ねえ、君」「お前」「あの方」——彼の口から零れる呼び方は、いつもそれだけだった。彼は笑って言うのだ。「君の名前、覚えるのが下手で」と。

 王宮の冬の夜会。彼が4度目の「ねえ、君」を口にしたとき、兄ジョスランが大きな書類鞄を抱えてやってきた。鞄の中身は、過去6年に届いた婚約者からの手紙、72通。——その全ての宛名から、私の名は消えていた。

「コンスタンス・ル・コンドゥラ嬢」——白銀の髪の王弟殿下が、初めましてのお顔で、私の名を、家名まで添えて呼んでくださった。「私は6年前から、貴女のお名前を呼ぶ瞬間を、待っておりました」

 ——ああ、ならば。私も、そろそろ自分の名前を、自分で取り戻して、よろしいのですわね。

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