【悲報】また夫が浮気してる模様

朝食の席で、三女の皿はいつも冷めている。
姉たちの婚約話が続く食卓で、リコリスはそっと魔法の掲示板を開く。
そこには夫の不倫に泣く貴族夫人たちの匿名の叫びが並んでいた。
前世は日本のNPO職員だった。
被害者の相談を五年間受け続け、恋人も友人も健康も全部失った。
支援者は当事者にならない。それだけが前の人生から持ち越した教訓だった。
乙女ゲームの世界に転生した今世こそ、誰にも関わらず静かに生きる。
そう決めていたのに、ゲームの記憶が邪魔をする。
王太子妃が自ら命を絶つBAD END。
掲示板の向こうで追い詰められているのは、その王太子妃本人だった。
見て見ぬふりは、できなかった。
匿名掲示板に「サレ妻互助会」を立ち上げる。
証拠の集め方、資産の守り方、離縁後の生活設計。
前世の支援ノウハウを、この世界の妻たちに渡していく。
鍵を変えた夫人がいる。
帳簿を見せてと言った夫人がいる。
小さな行動が連鎖して、夫たちの足元が静かに揺らぎ始める。
掲示板には、もう一人の存在がいた。
深夜に法令を正確に引用し、最後にだけ「食事はされましたか」と添える匿名の協力者。
名乗りは、六法全書。
妻たちが繋がるほど、脅迫も増えていく。
自分のために生きると決めたはずなのに、また誰かのために走っている。
前世と同じ道をたどっていることに、リコリスは気づいている。
それでも止められないのは、あの結末を知っているからか。
それとも、深夜の掲示板に灯る、あの一行のせいか。

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