公爵令嬢クラリス・レーヴェンハイトは、王宮夜会で王太子から婚約破棄を告げられた。
理由は、彼女が「民の心を知らぬ冷たい女」だから。
聖女候補ミリアのように民の前で涙を流せず、孤児院の毛布、炊き出しのパン、施療院の薬草代、戦死者遺族への補償——そんな実務ばかりに熱心な女は、王太子妃にふさわしくないと言われたのだ。
夜会を追い出されたクラリスは、雨の王都で一台の辻馬車に乗る。
「どちらまでですか?」
御者の問いに、クラリスは答えた。
「どこにも行かなくていいわ。ただ、走らせて。止まらないで」
その馬車は、失くしたものを探す客を、本当に探している場所へ連れていく不思議な馬車だった。
クラリスが探していたものは、王太子の愛ではない。
婚約者の地位でもない。
公爵家へ帰る場所でもない。
それは、自分の心がどこにあるのかという答えだった。
そして翌朝、王宮は知ることになる。
自分たちが切り捨てたものが、王都を支えていたのだと。
※誤字報告大変ありがとうございます。


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