扇を閉じる音が、夜会の大広間に落ちた。
公爵令嬢クラウディアは、三年間婚約者の隣で外交席を支えてきた。両国語と古典語を操る稀有な通訳官。けれど婚約者ダミアンは、乳姉妹のミレイユを「特別」と呼ぶ。
夜会の隣席を譲り、贈り物の格差に目を伏せ、「君なら分かってくれる」という言葉を受け止め続けた三年。
そんなある夜、王宮の隅で見知らぬ殿方と目が合った。誰かが、私の冷めた紅茶を見ていた。
私は、もう待つのをやめたのです。
怒鳴らない。罵らない。ただ、扇を閉じて、席を立つ。
それだけのことが、なぜこんなにも遅くなったのでしょう。
空いた婚約者の隣席を見て、社交界はようやく見えていたものを口にし始めた。
私の隣には、誰が座るのでしょうか。


レビュー