「家族同然なのだから、給金なんて水くさいだろう?」
伯爵令嬢エリーゼは、婚約者レナードの家が営む王都衣装館で、二年間無給で働いてきた。
表向きは「未来の侯爵夫人としての手伝い」。
実際は、花嫁たちの採寸日、仮縫いの順番、好みの色、避けるべき装飾、式当日の配達時刻、針子たちの作業順まで整える、婚礼支度の要だった。
休日はない。
給金もない。
それでも「家族になるのだから」と言われ、エリーゼはずっと支えてきた。
だがある日、妹フィオナが言う。
「看板娘なら、わたくしの方が似合いますわ」
婚約者レナードも、華やかな妹を新しい婚約者兼看板娘にすると告げる。
それでも裏の確認だけはエリーゼに続けてほしい、と。
エリーゼは静かに答えた。
「給金も休日もないなら、私は家族ではなく他人です」
そして彼女は衣装館を去った。
迎えた王妃宮御用達認定の最終審査日。
妹は花嫁衣装を「見栄え」で並べ、採寸記録を読まず、喪中の家に赤い飾りを出し、肩の傷を隠すはずの花嫁に襟の開いたドレスを渡してしまう。
泣き出す花嫁。
凍りつく針子たち。
そして王妃宮衣装監督官は告げる。
「これは花嫁支度ではありません。花嫁たちを飾っているだけです」
崩れた衣装館でエリーゼを見ていたのは、王妃宮御用達認定を預かる若き公爵だった。


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