宝飾商から届いた礼状に、知らない女の名前があった。
伯爵夫人マルグリットは五年間、領地の帳簿も交渉もすべて担ってきた。
夫は「君がいるから安心だ」と笑っていた。
その安心を支えていた手で、夫の嘘を掘り当ててしまった。
宛先不明の支出は、結婚した年の冬から続いていた。
問い詰めた夫の言葉は、謝罪ではなかった。
大げさに考えるな、と。
マルグリットは泣かなかった。
翌朝、婚姻契約書の離縁条項を開いた。
引き継ぎ書を完璧に仕上げてから、伯爵家を出た。
五年分の仕事を当然のように使った夫。
感謝もなく裏切ったその人のもとを去った。
手元に残ったのは、帳簿を読む力だけだった。
その力を、今度は誰のために使うのか。
そしてその仕事を、ずっと遠くから見ていた人がいる。


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