毎朝、誰もいない広間でひとり声を上げる。
王国の結界を繕い、封印を守る詠唱。
それが私の、十年間の日課だった。
婚約者は私の声を耳障りだと言う。
報告をすれば黙れと遮り、夜会では口うるさいだけの女と笑う。
彼が隣に置いたのは、微笑むだけの令嬢だった。
彼女も声紋魔法が使えると、婚約者は言った。
ならばもう、私が声を上げる理由はない。
辞表を出し、引き継ぎを残し、私は王都を去る。
向かった先は、北の辺境。
古代の魔獣を封じる声を求める公爵領。
そこには、私の詠唱を守りの歌と呼ぶ人々がいた。
王都では、結界が揺らぎ始めていた。
偽りの声が封印を蝕み、条約が軋む。
声紋石はすべてを記録している。
耳障りだと封じた声が止まったとき、何が崩れるのか。
その答えを知るのは、声を奪った者自身である。


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