毎晩、誰にも気づかれない仕事がある。
公爵領を包む結界を、たった一人で灯し続ける仕事。
リーゼロッテはそれを十年間、黙ってこなしてきた。
婚約者はその仕事を、立ってるだけだと笑う。
母の形見の石を、たかが石だと言い捨てる。
眠れない夜も、魔力で軋むこめかみも、知ろうとすらしない。
ある夜会で、婚約者は彼女を置物と呼んだ。
愛人に結界を任せると、全貴族の前で宣言した。
その愛人に結界の才能がないことを、彼女だけが知っていた。
百二十六頁の引継ぎ文書を残し、彼女は公爵領を去る。
持ち出したのは、母の石と、乳母と、鞄一つだけ。
恨み言は、一つも残さなかった。
王都で、彼女の結界を見ていた人に出会う。
三年前の視察で光の精緻さに気づき、報告書に赤線を引いた人。
立ってるだけと笑われた仕事を、国の盾と呼んだ人。
結界が消えた夜、公爵領の空から光が消える。
守られていたことに気づくのは、いつも失ってからだ。
光を手放した者の空に、もう一度あの光は届くのか。


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