泥まみれの妻が恥でしたら、どうぞ薔薇だけで冬をお越しください

三年かけた麦畑が、愛人の薔薇園に変わった。

リーネは伯爵家の婚約者。
毎朝、泥にまみれて種の改良研究を続けていた。
領地の三割の税収を支える、見えない仕事だった。

婚約者はその手を恥だと笑う。
愛人が望んだ薔薇を植えるため、研究農地が潰された。
三年分の畑が、一日で消えた。

持ち出したのは、泥のノートと一握りの種だけ。
宝石も衣装も、すべて置いていった。
その一握りが何を意味するか、婚約者は知らない。

改良種を育てる方法は、あの記録にしかない。
原種は、あの小さな麻袋にしかない。
王宮への報告義務を、彼は聞き流していた。

北の痩せた土地に、リーネの論文を読んだ男がいる。
泥にまみれる手を、恥ではなく尊いと呼ぶ人がいる。

薔薇は美しい。
けれど、薔薇だけで冬は越せない。
あの種の重さを、笑った人はまだ知らない。

※「小説家になろう」は株式会社ヒナプロジェクトの登録商標です
本サービスは株式会社ヒナプロジェクトが提供するものではありません

レビュー