「レシピは全部いただいた。お前は用済みだ」
婚約者にそう言い捨てられた料理人エマは、泣くでも、すがるでもなく、ただ微笑んだ。
「どうぞ。そのレシピでは、同じ味は作れませんから」
盗めるのは、レシピだけ。その日の一皿をどう作るかは、誰にも写せない。
エマを拾ったのは、没落した老舗の当主ライアス。五年前、彼女の作った一皿を、ずっと忘れられずにいた男だった。
エマの手で、傾いた店が息を吹き返していく。ライアスが見ていたのは、料理ではなく、彼女自身だった。
そして、王の御前試合。ガロが切り札に選んだのは、よりによって、エマから盗んだあの料理だった。
ざまぁと、溺愛と。盗めなかったものの話。


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