四十七回目の「分かりました」は、受容ではなかった。
伯爵家に後妻として嫁いだエーリカ。
義娘には拒まれ、夫には名前すら呼ばれない。
それでも三年間、見えない場所で働き続けた。
社交界の信用を守る手紙を毎日書いた。
義娘のデビューのために縁談を交渉した。
ドレスの手配も、贈答品の選定も、すべて一人で。
嫌われていると知りながら。
感謝されないと分かりながら。
報酬も、名前も、居場所もないまま。
ある夜、義娘が食卓で告げる。
「同席しないで」と。
夫は黙っていた。
その沈黙が、最後の刃になった。
エーリカは三年分の仕事を棚にしまう。
一行だけの手紙を残し、屋敷を去る。
振り返れば戻ってしまいそうだったから。
彼女がいなくなった翌週から、招待状が届かなくなる。
縁談が崩れ、取引先が離れ、使用人の目が変わる。
この家を支えていたのが誰だったのか。
残された者たちは、ようやく気づき始める。
けれどエーリカは、もう振り返らない。
自分の名前で生きることを選んだ人は、もう戻らない。
三年分の人生が、引き出し三段に収まった。
その軽さの意味に気づく者は、あの家にいるだろうか。


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