鏡写しの花

 きつい目じりに厚化粧、性格は高飛車で人を見下し、それなのにもかかわらず目上の者に対しては媚を売る。
 ミラージュ=マキシムとはそう言われている人物である。
 少なくとも、とある世界における乙女ゲームで描かれているミラージュ=マキシムはそういう人物なのだ。
 けれども現実は違う。
 紅茶色の髪を緩やかに編み込み、柔らかな紅茶色の瞳を持つ、優しい雰囲気の公爵家の少女。
 花を愛で、花に愛でられる、そんな心優しい少女なのだ。
 婚約者である公爵子息との仲も良好であり、学園に入学する前からその素晴らしい才能に期待を持たれ、生徒会入りすることが決定している。
 婚約者にも家族にも恵まれ、本人も美しく礼儀正しく、まさに非の打ち所のない、そんな少女を否定する少女が現れた。
 ディシュ=レンバール、最近になって女伯爵の伴侶の庶子であることが判明して引き取られたという少女。
 彼女は学園に入学してすぐにミラージュの元に行き、「あたしの事を庶子だからってバカにしないでください!」と叫んで大泣きしたという噂がある。
 もちろん、ミラージュがそんな事を言うはずもなく、完全にディシュの演技なのだが、あまりの大騒ぎに集まった生徒は何事かとミラージュに説明を求め、ミラージュはディシュが突然泣き出してしまったと事実を報告することしか出来なかった。
 ミラージュとしては、庶子であろうとも、この学園で共に学び、それぞれに見合った実力をつけることこそが使命だと思っている為、庶子だからと言ってディシュを非難するつもりはない。
 一方、ディシュはといえば、学園でも地位の高い子息に秋波を送り、酌婦顔負けの手管で近づいていっていると噂されている。
 その事に対して、ミラージュはとても残念な事だと思っている。
 いくら女伯爵の伴侶の庶子とは言え、伯爵家に引き取られたのであれば、それ相応の態度を示すべきだと、そう、一度だけ注意した。

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