クラウザー公爵の嘘

著者:亜逸

公爵家の若き当主ダニエル・クラウザーは、心臓の病に冒されていた。
病を治すために王国の名だたる名医を集めたものの、わかったことは長くても半年程度しか生きられないという残酷な事実だけだった。

両親はともに早世しているため、クラウザー家の血筋はダニエルただ一人のみ。
このままでは家が廃絶されることになってしまうわけだが……ダニエルにとってそれは、たいした問題ではなかった。
ダニエルにとってなによりも問題なのは、最愛の妻であるアルシアを一人残して逝くことだった。

家が廃絶の危機にあることからもわかるとおり、ダニエルとアルシアの間には子供はいない。
それはクラウザー家にとっては不幸だったのかもしれないが、アルシアの将来を考えたら幸運だったのかもしれないと、ダニエルは考えた。

アルシアはダニエルと同じく年若い。
今ならまだ、他の貴族に嫁ぐことができる。
死んだ人間に引きずられるよりは、その方が絶対に幸せになれる。
そう思ったから、ダニエルは決意した。

自分が死ぬまでの間に、アルシアに嫌われてみせると。
愛想を尽かせて、自分のもとから去らせてみせると。
そのために、アルシアを傷つけてでも嘘をつき続けてみせると。

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