ある日公爵令嬢アレクシアは、お一人様を満喫していたアラサー有森優花の記憶が甦る。同時に、この世界がなんとなくやった乙女ゲームの世界であることに気付いた。
与えられた役割は悪役令嬢。でもそれはいい。超がつくゴージャス美人でスタイル良しの悪役令嬢はかっこいいが詰まっている。それにヒロインよりはマシだ。
だけど断罪はされたくない。となれば、ヒロインが登場する前に王太子の婚約者候補を辞退しよう。どうせ嫌われているしね!ずっとストーカーまがいのことをしていたせいだけど。
今までの行動を思い返すと、申し訳ないやら、恥ずかしいやらで、むしろ王太子に近づきたくない。恋心は前世の記憶が甦ると共に霧散、これ幸いとフェードアウトさせていただきます!
無実の罪を着せられたくないので、ヒロインのカモさんたちは近づかないでください。恋だの愛だのアレクシアの人生に必要ありません。だって父と兄からの愛が重く、実家公爵家に居座りオッケー、身分もお金もあるのでひっそりお一人様を優雅に満喫します!
……と思っているのに、あれれ?
※ 作者に都合のいいゆるふわ設定なので合わない方はそっと閉じてください。
のんびり更新していくので、お付き合いいただける方よろしくお願いします。
レビュー
アラサー女性有森優花はガーバリス王国の十六歳の縦ロール悪役公爵令嬢アレクシア・ロシェットとして転生するが、転生前は気ままに生きていた有森優花は今の立場を嬉しく思っていなかった。
また、元のアレクシアは王太子ジェフリーの婚約者候補であり、正式な婚約者になるべく様々な努力をしていたようだが、ジェフリーがそもそもアレクシアに興味を持たず、一方通行な想いであったことに加え、
・有森優花転移後のアレクシアは恋愛そのものに冷めていたこと
・仮に結ばれても仮面夫婦となること
・アレクシアがジェフリーを手に入れるために行なっていた様々な『工作』がバレて立場が悪くなること
等の要因が重なり、『工作』がバレることを防ぐため、手始めに婚約者候補の辞退に向けて動く……。
如何にして社会からフェードアウトして自分だけの安穏な生活を手に入れるか――がテーマ。
また、良く言えば『戦略的撤退』悪い言い方をすれば『敗戦処理』を描いた話ではあるが、一般的には多く描かれることのない『後退する話』でも、なかなか一筋縄にいかない富んだストーリーが展開されている。
その一方で、なぜ学園の実技試験の内容が大きく変更された上にアレクシアが拐かされそうになったのかという新たな謎が提示され、読み手を飽きさせないようにしているのが理解できる。
また、第二章は前述の事件により早めに突入した夏休みを使い、アレクシアが訪れた亡き母親の実家がある隣国・ガルファタル皇国を舞台とした話となっており、突如として誰にも抜けないまま長年保管されていた『聖剣フェルナンド』をアレクシアがあっさり抜いた途端、自称『聖剣』が喋りだして魔王討伐を促したり(結局神殿での魔力の供給により辛うじて『ブレスレット』『言葉を話す猫』『扇子』となった)、皇太子のセルジュにストーキングまがいのことをされたりという一見すると謎展開に目が離せない(第一章において時折魔王についてそれとなく触れているシーンがあることから、今後この伏線が回収される展開がありそう)
そして従兄弟のフィリップが皇太子セルジュと共謀し、憑依前のアレクシアの権力欲を利用してセルジュの正室になるよう仕向け、皇太子セルジュと相思相愛ではあるが家柄が弱い子爵令嬢マルグリッド・ダリガードを側室に迎えるという目論見が失敗し、アレクシアがマルグリッドに追い込みをかけるシーンは、現代日本で若い女性が『穴モテ』を自身の実力と勘違いし『弱者男性』をカモにする姿に対する皮肉であり、アラサー女性がそれを見抜くことなど赤子の手を捻るが如くであることが窺い知れる。