派遣社員ジリアン・エヴァンスの手記

 ある日、少女は前世の記憶を思い出した。そして同時に理解した、自分はヒロインであると。
 自分にはここではない世界で生きた記憶がある、そしてここは一世を風靡した某乙女ゲームの世界によく似ている。だから間違いはないだろうと。
 しかし、少女にはなにもない。
 魔法や聖なる力を使うことも、刺繍や調薬の技術も、異世界の知識も、なにもない。
 さらに届け出が必要だといわれて届け出た役所で少女に与えられたのは【重要度ランクD】。
 その人の持つ前世の記憶がいかに重要かを示したランクの中で、最も低いランクだった。
 納得がいかずに騒げば、役所の奥の奥にある部署に連れて行かれた。
 そこは〝なんでも相談課〟というふざけた名前の部署。
 ふざけた名前の課に所属する職員はいう
「この世では、あなたのように前世の記憶を持っている人が大勢います。はい、沢山いるんです。あなただけではないんですよ。ですので、特別な技能や知識を持っていた方だけが重要度ランクが高いと認定されます」
 少女の自分は「乙女ゲームのヒロインである」という思いを完全否定した職員は、少女に一冊の本を手渡す。
 少女と同じように、特別な知識も能力もない一市民として生きたという記憶を持ったひとりの少女の十代半ばから二十代半ばに至る十年の手記を纏めたという本を。
「あなたと同じ立場だった女性のものですから、どうぞ参考にして下さい。こんな風に考えて行動した人もいたんだな、くらいに受け取って下されはいいかと」
 本のタイトルは『派遣社員ジュリアン・エヴァンスの手記』という、なんのひねりもないものであった。

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※身分や都市計画等全ての設定は架空のもので、実在のものや歴史上のものとは全く関係がございません。全てこの物語の世界の中だけのものです。
※設定などはふんわりしており、ご都合主義が普通に存在して当然のようにまかり通ります。そういうものなんだ、とご理解ください。
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