貴女が母上だったら良かったのに

 「貴方はもう、好きに生きると良いわ。鞄に入っているのは、これまでの慰謝料みたいなものよ。………遠慮せずに受け取って」

長年暮らした場所を僕、シューベルトは出ていく。

住みやすかったとは言えない、小さな別邸が僕の全てだった。

◇◇◇

僕の母親は、僕を産んで死んだ。

産まれたばかりの僕を残して。

僕の出産は、この家の奥様と同じ日だったらしい。

奥様は女の子を。

僕の母親は僕を産んだ。

僕の母親は愛人だったらしい。

このことは奥様と一部の使用人以外には秘密にされていたそうだ。

◇◇◇

「お前は私の跡取りだ。たった一人の男の子よ」

この家の伯爵様が幼い僕に言う。

それを見て、奥様の目が無意識につり上がる。

伯爵様はそれに気づき、ほくそ笑むのだ。

僕は愛人の子だけど、伯爵様と奥様の子として届け出が出されている。

奥様の子マルガリーテは、愛人の子として届けが出された。

血縁上の父親である伯爵のせいで、シューベルトの人生は大きく変わっていくのだ。

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