魔を束ねし黒の王

 かつて、勇者と呼ばれた男がいた。

 彼は正義の御旗を掲げて悪を誅し、人も魔物も殺してきた。万象等しく分け隔てなく、老若男女区別なく、正義の為に剣を振るってきた。それが正義だと、皆が言ってくれたから。

 やがて魔王との極限の殺し合いの果てに勝利を掴み取った勇者は───────愛する仲間に殺された。

 民の為に剣を振るい、平和の為に血を流し、正義の為に命を捧げ、世界の為に死力を尽くして戦い抜いたその果てに。

 何故、気付かなかったのだろう。そんなものは勇者ではなく、絶対正義の執行者でも、善なる神の代行者でも、平和の守護者でも何でも無く、ただの奴隷であるという事に。

「世界を救った英雄共に、思い知らせてやろうじゃないか」

 かつての仲間は世界を救った。
 だが勇者を、救ってはくれなかった。

「勇者を殺したその罪を、魔王を生み出した購い切れぬその罪の重さを…………一体誰に、喧嘩を売ってしまったのかを」

 魔王は求める、あの日に起きた真実を。
 勇者は願い、望み、何よりも欲する。己が殺されなければならなかったその理由を。

「勇者は死んだ、もういない」

 それを知る為ならば、どんな悪行も厭わない。

「────────お前達が殺したからだ」

 例え相手が、かつての仲間であったとしても。

 これはそんな悲劇に見舞われた勇者が魔王となり、真実を追い求める物語。

 真実を知った先に、一体何があるというのだろうか。
 どんな過程があろうとも、どうしようもない理由があったとしても、結果は何も変わらないのに。

 勇者が殺された事実は、何を持ってしても覆らない。
 それだけが現在判明している、唯一の真実。

 さあ、教えてあげよう。声を大にして、愛する仲間に殺された酷く哀れな勇者様に。
 歌うように、溺れるように、愉しそうに、哀しむように、喚くように、泣き伏せる童のように、狂い壊れた勇者様に。

 【この世界は、悲劇と喜劇で出来ている】と。

 

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