聖騎士の俺が好きになったヒロインが続々とアイツのハーレムメンバーになってしまうんだけど俺の何がいけないのか誰か教えてくれ!!

レビュー(1件)
著者:あみだ

異世界に召喚された俺こと山田一郎とナルシストイケメンの竜宮院王子。
鑑定結果は竜宮院が勇者、俺は聖騎士。
元の世界に戻るためにも俺達と聖女の三人で世界を救う旅に出る。

訓練を一切しない勇者を尻目に何度も死に目にあいつつ、傷だらけな俺。命掛けで助けたヒロインは毎度毎度何故かみんな竜宮院にベタボレ。竜宮院ハーレムは増える一方。

何だかんだ色々あって、諦めという名の悟りの境地へ至り、やがて再生(脳の)を目指す俺の物語。
15話が一度目のヘイト発散回となります。

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レビュー

  1. Mr.h より:

    山田一郎は高校二年生最初の日の通学途中でアルカナ王国に召喚されてしまい、突如として迷宮を攻略してボスを倒し、世界を救ってほしいと国王以下国の重鎮たちから依頼されてしまう。しかも召喚されたのは山田だけではなく、竜宮院王子という傲岸不遜な態度を隠そうとしない男も同時に召喚されていた。しかも鑑定の結果山田は勇者ではなく聖騎士で、勇者の称号は竜宮院に与えられたのを発端に、山田がどうしたものかと考えを巡らせる一方、竜宮院は国王らの依頼を安請け合いしてしまう。
    正直山田はこの国の行く末よりも日本に残した家族の心配をしていたが、一日でも早く戻れる可能性を高めるべく、過酷な訓練を積み重ねる一方、竜宮院は何かにつけて訓練や座学をサボり続けていた。そんな中、山田は王女パフィと心を通わせるが、パフィが選んだのは竜宮院だった。
    やがて竜宮院、山田、聖女ミカのパーティーは最初の迷宮へと馬車を進めるが竜宮院の傲岸不遜な態度は変わらぬまま、いざ戦いに身を投げると竜宮院はほとんど役に立たず、事実上山田とミカの二人で迷宮を攻略すると同時に徐々に良好な関係を構築しつつあった。ところが最初の迷宮を攻略し、城に戻るとミカは山田ではなく竜宮院の胸に飛び込むのだった。
    今後のことを考え、魔法使いのアンジェリカ、騎士団長の娘で聖剣の使い手エリスをパーティーに引き込み、彼女らとも心を通わせるがまたもや竜宮院になびいてしまい、事実上孤軍奮闘を強いられてしまったため山田は彼等と袂を分かつ……

    前述の簡単な梗概で言及したように、ジャンルとしては『異世界転移』(現代社会の人間がその人格のまま異世界へ行くことを『転移』、現代社会の人間が死亡等の理由により異世界で新たに生を受ける、あるいは異世界の誰かに憑依することを『転生』と分けられる)、しかも為政者の都合により召喚され、まったく関係なかったトラブルや問題に巻き込まれたり背負わされたりするタイプの話であるが、なぜ女性たちが汗をかいた山田ではなく口だけは達者で傲慢な竜宮院になびいたのか。また、話が進むにつれ、なぜ宰相やシエスタの山田との出来事の記憶と竜宮院との記憶を誰が何の目的ですり替えたのか――という謎を呈示することそしてある事情により現代日本の知識を使ってチートをしない(正確にはできない)ことで他作品との差別化を図っている。

    また、一見すると『剣と魔法のファンタジー世界への転移』に見えるが実は竜宮院が集団のリーダーで自己主張が強く暴力性がある一方、性的魅力が高いサル山のボス猿的なパーソナリティを持つ『アルファ男性』であり、山田が利他的で優しく、他人を尊重し、極力対立を避けようとする善人だがアルファ男性に搾取されやすい『ベータ男性』であることから、この話は強者男性から搾取された弱者男性が自分自身を取り戻すという話であることが分かる。
    つまり、生まれ持って努力せずに手に入れたものや環境に恵まれている状況を自身の実力と錯誤し、何者でもないやつが何者かになろうと努力したりもがいたりする姿をせせら笑うことに対する批判と名声と賞賛に弱い『意識高い系(笑)』および見た目と口先と地位に惑わされ、愚かな選択をする女たちに対するアイロニーなのだ。
    そして斯様な仕打ちにより山田は俗世間から隠遁するようになるわけだが、これは人の道を外さず社会的に正しく生きる男より他人を蹴落とし簒奪するヤバい男を選び、なびく女たちと、それを是とする社会に対する絶望であり、昨今その数を増やしているMGTOW(Man Going To Own Way;女性に見向きもせず我が道を行く男)あるいは竜宮院の首を切り落としたことを考えるとミソジニー(女性嫌悪)やインセル(女性および強者男性への敵視)そのものであると言えるし、隠遁先で邂逅したセナおよびセンセイことオーミ(「月が綺麗ですね」やタイタニックに言及する言葉の節々や現代日本にいないと知らない知識の言及により転移者あるいは転生者である可能性が示唆されている)との日々は『破壊された自己の再生』とも解釈できる。

    現実世界ではなかなか風向きが変わることは無いが、話が進むにつれ、崩壊へのカウントダウンが始まった竜宮院たちのパーティと『物事の本質』に数人が気付き、それが徐々に広がるさまと竜宮院が気付かぬうちに徐々に追い詰められていく姿を描くことである種の救いとなっている。
    おそらくミカ、アンジェリカ、エリスの三人は竜宮院によってマインドコントロールと洗脳がなされているが、竜宮院の誤算として、彼女らを隔離させ、他者との交わりを少なくすることでマインドコントロールと洗脳が成立していることに気付かず、三人を迷宮へと送り込んだことが彼女らの覚醒と自身の凋落を加速させたことと言える。