アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~

レビュー(1件)
著者:壬裕 祐

世界初にして唯一の仮想世界を実現したVRゲーム機器【Arcadia】。
あらゆる意味で世界の常識を覆したそのゲームがサービスを開始してから三年……その世界に今、アルバイトと勉学にまみれた修羅道を突破せし一人の青年が身を投じる。

「俺の青春三年間は、購入費用に充てた……ッ!!」

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レビュー

  1. Mr.h より:

    世界初の完全VRゲーム機・【Arcadia】は多くの人々の羨望を集める存在であったが、300万円というあまりにも高額な筐体に主人公を含む子どもたちには手も足も出ない状況だった。しかし、諦めきれない主人公は高校三年間のすべてを勉強とアルバイトとエナジードリンクに注ぎ、平均睡眠時間4時間という修行僧もドン引くような日々を過ごすことで300万円というカネを作り、憧れの【Arcadia】を手に入れてVR世界に身を投じる――が序盤のストーリー。

    【Arcadia】の価格を300万円に設定したのはおそらく、理論上逆算すると勤労学生控除で所得税が非課税になる、かつ親の扶養から外れることなく稼げる最高金額が暦年103万円×3年で309万円、さらに年をまたいだ3年生3学期の受験終了後に2~30万円稼ぐことを考えたら不可能ではないと作者が踏んだからであると推察できる。また、言わずもがな斯様な高額商品には大抵メーカーが信販会社と組み、ローンやリース、残価設定型ローンなどが提供されているはずだが、未成年たる高校生がそれらを組むことは不可能である。

    また、どうしても欲しいが手に入らないモノに対し、普通は人の頭の中はそれでいっぱいになり、それを手に入れるためには何でもする、また、発売と同時に大枚を叩いて買ったアーリーアダプタたちによるネットによるネタバレを貪るように読むものだが、故意にこれらの情報をシャットアウトしたという主人公の鋼の精神も大したものだが、それがむしろ変なバイアスを与えない仕組みになっているとともに、物語の重要な要素となっている。

    基本的には主人公は『ハル』として現実の自分自身に近いアバターで【Arcadia】に身を投じると同時に、同時期に【Arcadia】を始めた『ソラ』とともにゲームを進めるというのが基本的な流れとなっているが、これでは他人がプレイするRPGを観ることと大して変わりないため、できることなら読者の『離脱防止』として現実世界との関係や出来事を描くか、他の複数のプレーヤーとの邂逅をなるべく早く描いたほうが良かったのでは――と感じた。

    また、『ハル』が『ソラ』に付き添って色々と教える姿がマンスプレイニングではないかと思う読み手もいるかもしれないが、他者を凌駕した『ハル』のレベルや経験値、その後の『ソラ』の行動を鑑みるとその指摘は正しいとは言えない。

    あと、あくまで第一章を読み終えた段階の話として、仮にソラの正体が主人公の母親だったら読み手にトラウマ級の傷が付くのだろうなと思いながら読んでいたが、その心配はなさそうだし、これくらいのスポイルは許してほしい。