竜使の花嫁~新緑の乙女は聖竜の守護者に愛される~

レビュー(1件)
著者:カヤ

「あと半年、我慢すれば……」
16歳になり、成人すればこの家から逃げ出せる。12歳で母が死に、子爵である父の本宅に引き取られ、義母と義姉に虐げられ暮らすアリーシアは、それだけを頼りに過ごしてきた。しかし、ある日義姉に高位貴族からの婚約話が舞い込んだ。相手は、眼帯の下からも見える大きな傷跡を持ち、凍てついた瞳の恐ろしい人だという。顔合わせの日、恐怖で逃げだした義姉の代わりに、アリーシアが彼へ嫁ぐことになる。もはや逃げ出せぬ状況にアリーシアは絶望するが、その人は、アリーシアが幼い頃働いていた飛竜便の思い出の人で……。
身代わり婚から始まるシンデレラストーリー。

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レビュー

  1. ゆう より:

    アリーシアは、セイクタッドという場所で暮らす十二歳の少女で、母親の故郷であるアルトロフの言葉の翻訳を手がけながら、病弱な母親のセシリアと共に生活しながら、商売ともうひとつの家庭の存在によりなかなか帰って来ない子爵の父親を待つ日々を送っていました。

    しかし、アリーシアの母が亡くなり、父親であるハロルドに引き取られます。しかしアリーシアが妾の子であるため、本妻であるハリエットとその娘のジェニファーからは冷たく扱われます。

    アリーシアはそのままの状況に耐え続け、成人したらこの家を出て行くという計画を立てていましたが、ジェニファーの婚約者であるオリバーの手により、アリーシアはジェニファーの侍女として同行することが決まり、彼女の四年間にわたる我慢の計画は打ち砕かれます。しかし、ジェニファーの社交界デビューの直後、ジェニファーとオリバーの婚約が侯爵家の次男であるグラントリーからの求婚により破談となります。

    ジェニファーは初めはグラントリーを気味悪がりますが、この縁談に王家がかかわっているのと、自身の商売のメリットになるという父の考えによりジェニファーとグラントリーの縁談が進むこととなり、オリバーにはアリーシアが押しつけられることになります。

    しかし屋敷を訪れたグラントリーの正体は飛竜便の若社長だったのです。

    序盤における小公女ばりの『鬱展開』そして引き取られた子爵家であるバーノン家の面々のクソッぷりをこれでもかと描き、そして一気に形勢を逆転――と言うよりかはむしろ、今まで毒親によって虐待されていた子どもを里親がテーブルいっぱいの料理でお腹を満たしていくかのような描写にすることで、時代小説のような、現代社会とは異なる環境の話でありながら話そのものに現代性を持たせるという技法が使われているのが分かります。さらに単なる『逆転劇』で終わらせるのではなく、物語にもう一捻り入れることで読み手の予想を良い意味で裏切ることで最後の最後まで読み手を止めないような工夫がされています。