【九話完結】婚約破棄された車椅子の伯爵令嬢が大魔法使いの奇跡の力で歩けるようになってハッピーエンドを迎えるお話

「マリア。私は、君との婚約を破棄しようと思う。承諾してくれるだろうか?」

 テオドール伯爵家の令嬢である私は、イシュトヴァーン公爵家のグラディスから婚約破棄を通告された。
 私の目の前に、婚約を確かなものとしていた血の契約書が置かれ、事実上、その撤回を要求される。

「……分かりました。承諾いたします」

 私はグラディスの圧力に負け、彼との婚約破棄に同意した。

 しかし、私には婚約破棄された心当たりがあった──。

 自由に動かない両足だ。貴族学園で悲劇的な事故に遭い、私の両足はただの飾りと化していた。
 公爵夫人としての仕事をまっとうにこなせない私など、不要というわけだ。

 そして、私は事故に遭ってから、婚約者だけではなく友人達も失った。
 ……いや、仮初めの友人達が、私の下を去っていった。

「私にはもう、誰もいなくなっちゃったなぁ……」
「……マリア様。そんなことを言わないで下さい。まだ私がいます」

 私の呟きに侍女のエルザが目から涙を溢れさせる。
 ついには、大粒の涙を流して、子供のように泣き出してしまった。
 私は、そんなエルザを見て、軽く微笑みながら優しく語り掛けた。

「エルザ。そんなに泣かないで。実は私、スッキリしてるんだ」
「……マリア様?」
「私はもう自由なの。これからは、『公爵夫人になるのに』と咎められることもないのよ?」

 私は真っ青な大空に右手をグッと伸ばすと、雲をつかみ取るように手の平を握りしめる。

「私の前には、希望に満ちた無限の未来が広がってるのよ! 私は諦めない! 私はこれから、エルザと一緒にたくさんの幸せを手に入れるんだ!」

 これは、全てを失った伯爵令嬢が、持ち前の明るい性格を生かして、より良い未来を求める物語です──。

※当初、短編として公開予定でしたが、あまりにも長くなってしまいましたので、九話に分割しました。

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