ソフィーネが丘に立って麦浪(ばくろう)を眺めていると、そこへ一人の紳士が現れて、彼女にリンドウの青い花束を差し出した。
それはかつて彼女が好きな花だった。しかし彼女が今好きな花は違う花だった。だからその花束を受け取らなかった。
そして彼女は、もう二度とここへは来ないで下さいと元夫だった伯爵に告げて、彼女は建物の中へ入ろうとした。
するとその時鮮やかな赤毛の少女が飛び出してきて、母親に抱っこをせがんだ。
その様子を、伯爵は驚愕の表情で見つめていた。そしてソフィーネはそれに気付かぬ振りをして、娘を抱き上げながら建物の中へ消えていった。心の中で、
「これが六年前に私を捨てたあなたへの、私の細やかな仕返しよ」
と呟きながら。
リンドウの花束はもういらない。今さらですわ、伯爵様
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