おかえりなさいと言いたくて……

著者:矢野りと

神託によって勇者に選ばれたのは私の夫だった。妻として誇らしかった、でもそれ以上に苦しかった。勇者と言う立場は常に死と隣り合わせだから。

『ルト、おめでとう。……でも無理しないで、絶対に帰ってきて』
『ああ、約束するよ。愛している、ミワエナ』

再会を誓いあった後、私は涙を流しながら彼の背を見送った。

そして一年後。立派に務めを果たした勇者一行は明日帰還するという。
王都は勇者一行の帰還を喜ぶ声と、真実の愛で結ばれた勇者と聖女への祝福の声で満ちていた。

――いつの間にか私との婚姻はなかったことになっていた。

 明日、彼は私のところに帰ってくるかしら……。

私は彼を一人で待っている。『おかえりなさい』とただそれだけ言いたくて……。

※作者的にはバッドエンドではありません。
※アルファポリスにも公開しています。(九話完結)

※誤字脱字報告、有り難うございます。

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