変な婚約破棄

著者:間咲正樹

「うーん、美味い! このローストビーフ絶品だよ! 君も食べてごらんよ」
「もう、ウィル、あまりがっつかないでよ。恥ずかしいわね」

 今日は婚約者のウィルと二人で、名門ボールドウィン侯爵家が主催の夜会に来ていた。
 周りの人たちは、皆貴族らしく厳かに時を過ごしているというのに、ウィルは今日も体面なんて気にもせず、食べたいだけ食べて飲みたいだけ飲むという、子どもみたいな振る舞いをしている。
 本当に、ウィルは食いしん坊なんだから。
 その割には大した運動もしてないのにスマートな体型を維持しているので、いったいそのカロリーはどこに消えているのか、甚だ疑問だ。

「でもさ、せっかく料理人たちが腕を奮って作ってくれた料理だよ? それを食べないで眺めてるだけなんて、そっちのほうが失礼だとは思わないかい?」

 ウィルはいつものようにニッコリと、屈託なく微笑む。

「……まあ、それは確かに」

 普段の言動は子どもっぽいのに、たまにこういう核心を突いてくるから侮れない。
 どっちが本当のウィルなのかしら……。

「エスメラルダ、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」
「「「――!!!」」」

 その時だった。
 ボールドウィン家の嫡男であるヒューバート様が、婚約者であるエスメラルダさんに対して、右手に持った短い鞭を向けながら、そう宣言した。
 だが、この婚約破棄は、巷に溢れている婚約破棄と違って、どこか違和感があった――。

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