西の魔女に婚約者を奪われたフェリシー・ブランジェは、化け物侯爵の妻として生きていく

著者:間咲正樹

「フェリシー、ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」
「――!!」

 ディヴリー伯爵家が主催している夜会の最中。
 子爵令嬢のフェリシーは、ディヴリー家の嫡男であり、婚約者でもあるオーギュストから、唐突にそう宣言された。

「オーギュスト様、ご冗談はお控えください。ご来賓の皆様が困惑されているではありませんか」
「もちろん冗談などではないさ! 俺はやっと真実の愛を見付けたんだからな!」
「真実の愛……?」
「今日から俺は、西の魔女、ノエル様に生涯を捧げることを、ここに誓う!」
「んふふ、イイ子ね、ぼーや」
「「「――!!」」」

 その時だった。
 まるで影が立体化したみたいに、オーギュストの隣に、どこからともなく一人の女が現れた。
 その女は全身を漆黒のドレスで包んでおり、烏の濡れ羽色の髪に、血のように紅い瞳。
 そしてその顔は、見ているだけで魂を吸い込まれそうになるほど、美しかった。
 彼女こそが西の古城に住む稀代の魔女――通称『西の魔女』、ノエルだった――。
 オーギュストはノエルの美貌に誘惑され、フェリシーとの婚約を破棄したのである。
 権力・武力・美貌、全てにおいてノエルに及ばないフェリシーは、泣き寝入りするしかなかった……。

 そして悪夢のような婚約破棄劇から数ヶ月――。
 傷物になったフェリシーには、なかなか次の婚約者は見つからず、このままでは修道院にでも行くしかないかと、半ば諦めていた、その時だった。

「フェ、フェリシー! やっとお前の嫁ぎ先が決まったぞ!」
「――!」

 フェリシーの父が、血相を変えて部屋に入って来た。

「……お相手はどなたですか、お父様?」
「……うむ、それがな――あの、ジャン・クストー侯爵閣下なんだ」
「――なっ」

 フェリシーの新たな婚約者に立候補したのは、『化け物侯爵』の異名を持つ、ジャン・クストーだった――。

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