貴方は、ツギハギ令嬢の私の手を取った

 貧乏子爵家の次女のクリスティナ=スミスンは、王城の舞踏会が開かれるホールの前で、突然男性に声をかけられた。
「宜しければ私にエスコートをさせて頂けませんか?」と。
 その人は見上げるほど背が高く、均整のとれた立派な体躯をしていて、その上には、恐ろしく整った顔があった。
 彼は今この国で一番の人気のある英雄の騎士だった。
「ほとんどの貴族令嬢が王立学園へ通っている中、城でお針子として働いている自分になぜ? しかも、今日の私はツギハギだらけの物凄く妙ちきりんな格好をしているというのに」
 彼女は驚き戸惑った。彼とは分不相応な自分が彼の手を取ったら、明日以降女性達からどんな目に遭うか分かっていたからだ。
 しかしデビュタントの彼女は、この夜会でどうしても成人としての証明書をもらわなくてはいけない訳があった。
 そのために、彼女は覚悟を決めて憧れの人の手に、その手を委ねた。
 無自覚に人々を魅了(魔法ではない)していく苦労人少女と、彼女を陰から見守り続ける美丈夫騎士の恋物語と複雑な人間模様。

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